執筆 弁護士 板橋勇太
1 話すことの概要
さて、今年も残るところあと一月となりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。防寒対策などにも気を付けて健康第一で頑張りましょう。
今回は、取締役会が設置されていない株式会社において、会社を代表する代表取締役が2名以上いる場合に、困ったことに代表取締役同士で経営権を争っている場合についての、株主総会の招集手続に関する問題点をお話しします。
2 株式会社の登場人物
株式会社には、会社の株主、会社を代表する代表取締役、代表権は持っていない取締役、監査役、会社の従業員、会社の取引先、などなど、色々な立場の人がいます。
今回問題になる登場人物は、このうち、株主、代表取締役になります。
3 今回話すこと~会社に代表取締役が2名いて経営権争いしている場合~
⑴ 例題~T郎さんとJ郎さん、二人の代表取締役による争い!!~
例えば、株式会社A社があるとします。A社は取締役会が設置されておらず(会社の定款をみるとわかります)、代表取締役が2名(それぞれT郎さん、J郎さんとします。)いて、T郎さんはA社株式を過半数持っているとします。
T郎さんとJ郎さんは、経営方針の食い違いで、経営権争いを続けています。
T郎さんはJ郎さんを何とか代表取締役を解任して、一人で会社を運営しようと考えています。
⑵ T郎さんの策!解任のための株主総会
ここで、T郎さんは思うのです。「自分は株式を過半数持っているんだから、株主総会でJ郎さんを解任しよう。」
「何だ。簡単じゃないか。」T郎さんはそう思ったかもしれません。しかし、ことはそう簡単にはいきません。
確かに、T郎さんはA社株主を過半数取得しているので、株主総会を開催しさえすれば、株主の過半数の賛成による取締役の解任(会社法339条1項、309条1項)が行えます。これにより、J郎さんは取締役ではなくなりますので、法的に会社の経営を行えなくなります。
そう「株主総会を開催しさえすれば」です。
⑵ 株主総会には、株主総会招集手続が必要不可欠!
株主総会を開催するには、法律上、株主を集める手続、「招集手続」が必要になります。法律にのっとって招集手続を行わないと、株主総会が取り消されたり、無効になったり、全ての目論見はご破算となります。
本件例題では、この招集手続を行うのが難しいのです。
取締役が設置されていない会社では、定款に別段の定め(例えば、「取締役T郎さんが招集決定権がある」という定款の定めなど。ただこのような定款の定めを置いている会社は多くありません。)がない限り、取締役の過半数をもって株主総会の招集を決定し、指定を受けた取締役が1人で、実際に招集を行います(株主総会招集通知を出すなどします。)。
しかし、A社は、取締役は1人ではなく、2名います。代表取締役のT郎さん、J郎さんです。
つまり、T郎さんがJ郎さんを解任するための株主総会招集を決定しようとしても、J郎さんが招集に賛成するわけがないので、招集することは事実上不可能となります。
さて、どうしましょう。T郎さんは過半数の株式を持っているのに、肝心の株主総会を開けません。このまま、J郎さんと経営権争いを続けて、苦しんでいくしかないのでしょうか。
⑶ T郎さんの第二の策!株主総会招集請求、招集許可申立!
いいえ。別の方法があります。
100分の3以上の株式を有する株主(公開会社の場合には6カ月前には保有している必要あり)であるT郎さんは、代表取締役に対し、株主総会の招集を請求することができます(会社法297条1項)。
「あれ、それでも結局、A社では代表取締役が2名いるから、T郎さんだけじゃ招集できないじゃん。」と思うかもしれません。
これについては法律が対策しています。
株主総会招集を請求したT郎さんは、その請求から準備期間など必要な期間が過ぎても(法律上「遅滞なく」と表現されます)株主総会の招集がなされない場合には、裁判所に株主総会を招集していいかどうかの許可を貰って、代表取締役としてではなく、A社の株主として、自らだけで株主総会を招集することができます(会社法297条4項1号)。
この許可をもらうには、裁判所に必要な資料や理由を述べて許可を貰う申立てを行わなければならないので(株主総会招集許可申立てといいます。)、面倒ではありますが、T郎さんはJ郎さんの賛成を必要とせず、念願の株主総会を開催するための招集手続を行うことができるのです。
株主総会を招集する許可をもらったT郎さんは法律の順にのっとって、株主総会の招集手続を行い、有効に株主総会を開催しさえすれば、J郎さんを取締役から解任し、晴れて、一人で会社を経営することができるようになります。
4 取締役会設置会社でも同様の問題は起きる可能性
以上の例題の問題は、取締役会が設置されていない会社で多く起こる可能性がありますが、取締役会が設置されている会社でも起きる可能性はあります。
取締役会設置会社での株主総会は、取締役会の決議に基づいて代表取締役が招集しますが(会社法298条4項、349条4項)、例えば、取締役間全員で経営権争いが生じてしまった場合などは、株主総会を招集する決議は行われません。
この場合にも、株主として、だれかが株主総会を招集する手法を用いるわけです。
5 残る問題
以上のように、代表取締役(又は取締役)同士が経営権を争っている場合でも、株主として手続を行えば、基本的に、法律の手続を踏みさえすれば、経営権争いを終息させるべく、取締役を一新できます。
ただ、突如、取締役を解任されると、代表取締役は突然無職になり路頭に迷うなど、解任による不利益が生じます。このような不利益を被った取締役は、解任理由に正当な理由がない場合、会社に対して被った不利益分の損害賠償を行えるなど、残る問題はあります。また、T郎さんのように株主でなかったり、株主であっても過半数の株式を持っていなかったりした場合には、当然ですが、J郎さんのような対立する代表取締役を解任できません。
以上から何がいいたいかというと、会社で経営権争いになる前に、いい人間関係を構築して、仲良く経営するに越したことはないということです。これは法律で何とかできる問題ではなく、結局、経営者の皆さんの人間力によることになります。
以上
法律事務所Sでは事業者を強力にバックアップする顧問サービスを提供しております。
ご質問があれば、こちらからお気軽にお問合せください。
どうもありがとうございました。