誹謗中傷的投稿への対応策~改正プロバイダ責任制限法について~

弁護士の末広です。

ツイッターやインスタグラムなどに代表されるSNSは、Webマーケティング分野において注目度の高いコミュニケーション手段です。
高額な広告宣伝費を負担することが困難な中小企業様や個人事業主様にとって、多額なコストを負担せずに、市場との接点を持ち、市場からの信頼を獲得しうるアーンドメディアは、有用かつ効率的なマーケティング手法と言えます。

SNSには、好意的なコメントだけではなく、否定的なコメントを含む様々な投稿がなされます。
ネガティブな投稿は、商品・サービスの改善に結びつけるチャンスです。
しかし、ときには、率直な感想のレベルを超えて、誹謗中傷・侮辱にあたるような投稿がされることもあります。
一見して行き過ぎた投稿であっても、場合によっては、企業イメージが低下し、深刻な収益性低下につながることもありますので、企業として対応をすべき場面を想定しておく必要があります。

誹謗中傷・侮辱に該当するレベルの不適切投稿については、民事的対応、刑事的対応を取ることが検討されます。

民事的対応としては、
・投稿の削除請求
・投稿者に対する損害賠償請求
といったものが考えられます。

刑事的対応としては、
・捜査機関に対する告訴・告発
が考えられます。
なお、令和4年6月13日には、改正刑法が成立し、侮辱罪が厳罰化されることとなりました。

さて、以上の対応に当たっては、投稿者、すなわち発信者が誰なのかを特定する必要があります。
これを定めているのが特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称プロバイダ責任制限法)です。
同法に定められた発信者情報開示請求制度では、
・侵害情報の流通による請求者の権利侵害が明白であること
・情報開示を受けるべき正当な理由があること
を要件として、
法の定める特定電気通信役務提供者に対して、
・発信者情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)
の開示請求ができます。

また2022年10月1日には、改正プロバイダ責任制限法が施行される予定です。
改正後の発信者情報開示請求では、SNS上での権利侵害への被害者救済の実効性を高めることを目的として、
1 発信者情報開示命令の新設
2 開示請求を行うことができる範囲の見直し
などがなされます。

1は、現行法では、発信者情の報開示までに、一般的に、2度の訴訟手続きを経る必要があるところ、法改正によって、1度の非訟手続による発信者情報開示を実現することで、発信者特定までのスピードアップを狙うものです。
2は、投稿時点の投稿者のIPアドレスやタイムスタンプを取得せず、ログイン時にのみこれら情報を取得・保有するログイン型サービスがSNSの主流であることを踏まえ、現行法では、対象範囲に当たるかの判断が分かれているログイン時情報を、改正法では開示範囲に含めることで、発信者特定の可能性アップを狙うものです。

法律的・技術的な話はさておき、今回の改正で、
・より早く投稿者が特定できるようになる
・主にSNS上の誹謗中傷・侮辱的投稿について、投稿者を特定できるケースが増える
というイメージを持っていただければよろしいかと思います。

ブランディングの観点では、侵害情報の1日も早い削除が大切です。長年の努力で育て上げた企業ブランドは、発信者に対する損害賠償請求や刑事罰によって取り戻すことのできない、貴社の重要な経営資源だからです。

2022-07-20 | 誹謗中傷対策